農業を始めるにあたって、最初に誰もが悩むのが**「何を育てるか」という作物選び**です。
特に新規就農者に多いのが、
- 「珍しい作物の方が高く売れそう」
- 「市場に出回っていないからチャンスがありそう」
といった理由で選定してしまうケース。
しかし、これは前にもお話しましたが、最初からこの考え方はあまりおすすめしません。
たしかに、ニッチな作物には需要があるかもしれません。
ただし、長期的に安定して農業を続けていく一つのヒントになるのが「反収(=1反あたりの収量)」という視点になります。
反収とは、単位面積あたりにどれだけ収穫できるかを示す指標で、農業経験者はこの数値を非常に重視します。
アスパラとの出会いと選定理由
私自身、7年前に初めて農業の研修を受けた際、アスパラガスという作物に大きな魅力を感じました
当時は次のような条件を満たしており、
- 価格が安定している
- 収量も安定している
- 天候に左右されにくい
- 技術的ハードルも比較的低い
まさに理想的な作物に思えたのです。
変わってきた気象とアスパラの今
しかし近年では、その中の**「収量の安定性」と「天候への耐性」**が崩れつつあります。
原因は、夏の極端な暑さです。
● 35℃で光合成が低下
アスパラは35度を超えると光合成量が落ち、自然と子供(新芽)が少なくなります。
かつては11時ごろに35度を超えていたのが、今では朝9時の時点で35度に達する日も珍しくないのです。
この2時間分の光合成の損失は、そのまま反収の低下につながります。
● 40℃を超えると夏バテ状態に
さらに気温が40度を超えるようになると、アスパラは完全に夏バテ(休眠してしまうという話も)。
生育自体が鈍り、結果として反収の落ち込みが加速するという悪循環が起きています。
結局は「変化にどう付き合っていけるか」
完全に読んでいたつもりのアスパラでさえ、徐々に変化していっています。
反収も将来性も、選ぶ時点では完璧に読むことはなかなか難しい。
これはアスパラだけでなくどんな作物にもリスクはあります。
たとえば、トマトのような作物では──こういう話を聞いたこともあります(現在はまた変わっているかもしれませんが)
- 「トマトが売れている」と話題になる
↓ - 作る人が一気に増える
↓ - 出荷が集中して価格が下がる
↓ - 採算が合わず、やめる人が出てくる
↓ - 時間がたち、また「トマトが高いらしい」と言われ始める
↓ - 再び作る人が増える(以下くり返し)
わからないのであれば、最初に“どのくらい収穫できるのか”という視点から選んでみると、
少しだけ、地に足のついた農業が見えてくるかもしれません。
結局最後のところは、「育てたい作物かどうか」よりも、
“変化にどう付き合っていけるか”のほうが大事じゃないかと感じています。